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これは義体だ!オリィ研究所の #分身ロボットカフェ でOriHimeたちとお話してきた

先日、とある偶然とご縁に恵まれて、ずっと気になってたオリィ研究所のカフェ実験に参加することが出来ました。ものすごく衝撃的な体験だったので拙い文章ですが少しでもなにか伝われば幸いです。

とにかく衝撃の連続でした。同じ筐体のロボットから個性豊かな肉声が聴こえることで明らかな個性を伴う身体性を獲得すること、様々な事情で外出できない人たちが情報技術の恩恵を受けて離れた空間に身体を得て躍動すること、そしてその先に確かにあると感じさせられる未来、ビジネスとしての可能性。

目次

分身ロボットカフェとは、OriHimeとは、オリィ研究所とは

今回参加した分身ロボットカフェは、オリィ研究所が赤坂の日本財団ビルで2018年11月26日から12月7日まで開催する、「ロボットがスタッフとして働くカフェ」を舞台とした実証実験です。

ここ数年、我々が生活する場面でロボットを目にすることが増えてきていますが、この実証実験で用いられる「ロボット」は一般的なイメージのそれとはちょっとニュアンスが違っています。通常ロボットと言うと、プログラミングされた、あるいは自律的に動作するものを想像しますが、分身ロボットカフェで稼働するOriHimeならびにOriHime-Dは、一体のロボットに一人のパイロットが裏側にいて操作しています。パイロットとロボットたちの間はインターネットで接続されており遠隔地からの操作が可能です。

開発を行っているオリィ研究所ではOriHimeやOriHime-Dのことを「分身ロボット」という呼び方をしています。元々、OriHimeが先に世に出ていて私が初めて知ったのはたぶん2016年のNHKクローズアップ現代でだったと思います。番組では、病気でベッドから動けない方が視線入力で小さなロボットを動かしており、お見舞いに来た人に挨拶をしたり、ご家族の方々がロボットを旅行に連れ出すとロボットが見たものがベッドの上のモニタに表示され、患者さんのレスポンスはロボットを介して旅行先のご家族に伝わり…というような内容が放送されていた記憶があります。そのときに私が見た「小さなロボット」がOriHimeでした。

番組を見て以来、OriHime自体のかわいらしさもあってずっと気になって追いかけていたのですが、今回、カフェでの実証実験で使われているのは、身長が120センチほどになったOriHime-Dです。かなりクイックな動きでジェスチャーを繰り出すOriHimeと比較して、ある程度の重さのあるものを持てる腕と水平移動、旋回能力を手に入れたようです。

今回の実証実験は、10人のパイロットの方々が日本全国に散らばっていて、彼らがOriHime-DやOriHimeを自分の身体の延長として操作し、オーダーを取り飲み物を配膳するというオペレーションを行なうことで、色々な意味で「何が起きるのか」の知見と経験を収集することを目的としているようです。

http://orylab.com/

ロボット好きの視点からフェティッシュに語る

ロボット好きがロボット好きになるキッカケというのはもちろん人それぞれですが、私の原体験は攻殻機動隊のタチコマでした。なので、同じ筐体であるにもかかわらず個性が存在する、というモチーフは超大好物です。

今回分身ロボットカフェで働いているOriHime-Dは、最初にテーブルに来てくれるときに、パイロットがどなたでどんなバックグラウンドなのかがわかるバインダーを持っていて、左胸にはバインダーと同様の情報が記載されたバッジ的なものをつけて働いています。さらに、OriHime-Dはパイロットさんご本人の声が出ます。

これはロボット好き視点からは非常に大きな意味を持っていて、いい意味で「目の前にいるこれはロボットなんだろうか人なんだろうか」という不思議な感覚に包まれます。我々がロボットと接するとき、Aiboのような人語を発さないものであれ、RoBoHoNやPepperのように会話できるものであれ、あるいは石黒先生のマツコロイドやtottoのような外見のリアリティを追求したものであれ、「今自分が接しているのはロボットである」という強い確信をもって関わることが出来ます。また、こういった関わりの中のふとしたタイミングで、機械であるはずのロボットに人格の片鱗のようなものを感じてドキッとすることが多々あるのも事実です。ですが、このカフェにいるのは、飲食店に貼ってある「このキャベツは○○さんの畑で取れました」のようなフォーマットで「この機体を誰が操っているのか」がわかる、有り体にいえば「中の人」の存在を強く意識する対象となります。

そしてこの「中の人」感は、OriHimeたちとの会話が進むに連れ、もはや「中の人」ではなくその人格が筐体の境界まで浸出して「その人」として感じられるようになります。これは本当に不思議な感覚でした。

当初は、パイロットさんがカメラ越しにこちらを見ている意識なのでこちらが手を振るにしても話しかけるにしても、焦点がロボットの背後に透過するような「奥の人と話す」感覚が残ります。この時点では目の前にいるロボットはあくまでもロボットなので、まじまじと見たり触ったりすることがとても自然にできます。

ところが人格がロボットの先にあるのではなくロボットそのものに感じられるようになってくると、凝視したり触ったりということがしにくくなります。これはOriHime-Dの筐体が女性的なフォルムであることも強く影響しているとは思うのですが、明らかに命を持たないロボットでありつつ、でもちょっと女性的な感じもするぞという視覚情報、スピーカーから聞こえる「中の人」の声、徐々に存在感を増す人格感などが複雑に重なり合ってとても不思議な気持ちになります。

外出困難者の就労という視点から未来を語る

若干フェティッシュに走りすぎたので少し冷静さを取り戻しつつ、「中の人達」の就労という視点からも考えてみたいと思います。

分身ロボットカフェでは壁面にパイロットさんたちのプロフィールが貼り出されています。上記でも触れたように、OriHime-Dたちにもパイロットさんの人となりがわかるような名札をつけています。公式ページで「様々な事情で外出や就労が困難だが働きたい強い意志のある方10名」と書かれている通り、それぞれに細かな事情は異なるようですが大雑把なくくりで言えば「外出困難だけど働きたい」という方々です。

今、ロボット関係の展示会に行くと、福祉介護系のロボットは非常に人気を集めています。人型ではなく関節や動きを補助するようなロボットを用いて障害を持つ方々を直接的にサポートするものや、同じような機材を使うけれども介助する側の方々をサポートするものもありますし、掃除や配膳などの肉体労働をするもの、力仕事は出来ないけれどもコミュニケーションを取るものなど様々です。もちろんこれらは大変素晴らしいプロダクトですし、福祉や介護の現場で欠かせない存在だと思います。ただ、今回の分身ロボットカフェは、障害を持つ方々の就労という経済活動、ぶっちゃけちゃえば「お仕事して金を稼ぐ」というところにフォーカスしていて、ここに踏み込めているソリューションやプロダクトを僕は他に知りません。

パイロットの方からこの辺のお話を聞かせていただいたのですが、これまで内職していたことはあるけれども接客業は初めてであること、とてもワクワクしているということを仰っていました。企業などでの障害者雇用は徐々に広がってきていますが、外出困難である方のところまではおそらくその広がりは届いていないであろうことが想像される中、接客業というこれまで障害者雇用とは相性が悪かったであろう領域に一足飛びにクリティカルヒットを打ち込んだこの実験は本当に価値あるものだなと強く感じました。

おそらく、全ての外出困難者がこの仕組みに乗っかれば就労できる、というものではないでしょう。人と話すことが好き、話題を引き出す能力、声の良さ、話の面白さなど、求められる要件はもちろんあると思います。ただそれでも、今まではその能力を持っていたとしても就労できなかった人にとって、この仕組みは就労可能性をぐっと拡大しうるものであることは間違いありません。

具体的にこの仕組みがどんなところで使えるだろうと妄想してみました。複数の言語が使える人だったら多言語で対応できる受付、というのもありかもしれません。インターネット越しなのだからそもそも「中の人」が日本在住である必要すらありません。「日本に住んでてフランス語がわかる日本人」でもいいですし「フランスに住んでて日本語がわかるフランス人」でも問題ありません。組み合わせはもっとあるはずです。賛否はあるかもしれませんが、メイドカフェ的な業態とも相性が良さそうに思います。ひたすら話を聞いて欲しい認知症の方の話を聞いてあげる、とか、何かの相談をしたい人に対するメンターやセラピスト的なお仕事もありそうな気がします。

また、これだけ強く人格を感じうるロボットが、必ずしも「接客業」という縛りの中にいる必然性はありません。肉体を伴う前提では長時間いられない場所、たとえば冷蔵室みたいなところだったり不安定な高所での監視だったり在庫管理みたいなことは向いていそうです(動作温度の下限はあると思いますが)。OriHimeのオペレーションができるということはPCなりタブレットなりが使えているわけですから、通常のオフィス業務もできる方がほとんどであろうことを考えると、人間は働いていなくてOriHimeだけの部署(すっごく狭いスペースでも大丈夫!)とかだってアリかもしれません。

昨今、AIやロボットといった技術が労働を人間から奪うのではないかという話題もちらほらありますが、人とロボットが一緒に働いているところを見ると、そういった話題に対するアンチテーゼとして今回の実証実験を位置づけることもできるなぁと感じました。

まとめ

実は冒頭の写真は、今回の実験に参加させていただいて撮影したものの中で一番気に入っています。あんまり気に入っているので再掲します。

これ、何をしているのかというと、一日の業務が終わったタイミングで、OriHime-Dたちと現地のスタッフさんが集まってミーティングしてるんです。OriHime-D同士も顔を合わせてたまに手を降ったりしてコミュニケーションを取っています。人とロボット、ロボット同士、ロボットの向こうにいるパイロットさん同士…。外部から見ているときにはロボットに見えているけど実際には各OriHime達には1体1で「中の人」がいるのだから全て人と人とのコミュニケーションなんですよね。なんだかいろんな事を考えてちょっと涙が出てくるような感じのあるシーンでした。

なので、「ロボット」という表現になっていますが、僕の知っている概念としては、攻殻機動隊に出てくる義体、特に遠隔地から人型の義体を操る「リモート義体」が一番近いと感じました。今はまだ「人の能力を超える」ところまでは来ていないけれど、きっと時間の問題なんじゃないかなぁと思います。そうすると、自身の肉体で働くよりも義体を経由して働くほうがいいみたいな未来がやってくるのかと思うと胸が熱くなります。僕なんかは通勤時間が割と長い部類(ドアツードアで2時間弱)なので、分身を職場においといて、身体が必要なときには分身にログインする、みたいな働き方出来たら夢のようだなぁ…。

さて、分身ロボットカフェは12月7日までの期間限定営業ですが、きっと今後もこういった実証実験を繰り返していくのではないかと思います。僕も引き続き追いかけて見ようと思います!

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